二つの別れの儀式(「広報わかくさ」第3号)
2012.03.24もうすぐ卒園式です。一年が本当にあっという間です。
私は僧侶でもあるので、よく葬式の導師を務めます。卒園式も葬式も、どちらも別れの儀式です。卒園式では子ども達に卒園証書を送り、葬式では故人に引導法語(導師が葬儀の時に読む言葉)を送ります。考えてみると、卒園式は人生で最初に迎える別れの儀式で、葬式は人生で最後に迎える別れの儀式なのかなと思います。
子ども達は別れというよりも、これから大空に向かって羽ばたいていく希望の方が大きいでしょう。でも、一緒に遊んだお友達や先生との別れ、過ごしてきた保育室や走り回ったホールや園庭との別れには、やはり寂しさも感じるのではないかと思います。だから、毎年式の間、号泣する子達が何人もいます。
また、子供たちの巣立ちを見届ける保護者や先生達は、これまでの成長を振り返り、これから様々な経験を積むであろう幼き者達の前途を思い、期待を持って送り出すのです。人生をスタートしたばかりの子どもの門出です。
一方葬式は、人生のゴールを迎えた人の旅立ちです。現実には、残された遺族の思いが深く関わってきます。亡くなる時期の早い、遅いがありますが、どんな形にせよ、人生のおつとめを終え、本来の安らぎの世界へ帰っていく故人を偲び、ご苦労様とねぎらってやる、そして故人の遺志を受け継いで生きていくことが大切だと思います。その思いを受け、故人も安心して旅立っていけるのです。
卒園式と葬式、人生の最初と最後で迎える別れの儀式である両者には、このように大きな違いがあるかもしれませんが、どちらも厳粛で、立ち会う者の心に深い感慨を与えるものだと思います。
卒園おめでとうございます。
保護司の大沼えり子さんの講演会
2012.01.301月21日の土曜日、酒田地区(遊佐地区も含む)幼稚園PTA連合会の研修会が行われました。この日は保護司、作家の大沼えり子さんの講演会が午後から行われる予定で、講演依頼者の私は、仙台からバスで来る大沼先生を迎えに行き、うちのお寺に少し寄ってもらいました。その後PTA会長さん達も交え昼食を共にしたのですが、大沼先生のテンションの高さと、早口ながらも皆を引き込む話の内容に終始圧倒されました。何しろ彼女の肩書は料亭の女将、ラジオのDJ、シンガーソングライター、作家、教育委員等々多岐にわたり、あたかもあらゆるキャラクターを演ずる女優さんの話を聞いているようでした。
しかし彼女の最大の功績は、保護司としてたくさんの少年、少女を非行から立ち直らせ、更生の道を歩ませていることでした。私も同じ保護司として活動しているのですが、彼女のことを考えると、自分の中途半端さを痛感します。何しろ彼女の平均睡眠時間は2~3時間!身体を壊さないのかなと心配します。
講演会は約90分間で、前半が震災について、そして後半が自分が面倒を見ている少年、少女達の話でした。自ら被災しながらも、津波に流され命からがら逃げてきた人々を介抱し支援していく様子、自宅で警察犬を飼っているので、一般の人は入れない被災現場に足を踏み入れ捜索活動をした時の様子など、メディアの情報では分からない生々しく具体的な話をしていただきました。改めて震災の恐ろしさを再認識しながらも、人間だけでなく犬や猫、牛や馬にも憐憫の心を向け、復興のために尽力する彼女の愛の深さを感じました。
そして彼女のライフワークである保護司として、虐待を受けたり親の顔を知らない少年、少女達が非行に走ってしまった結果、自分がその更生を引き受け、社会に受け入れられるよう努力していく過程の話は、涙なくしては聞けない話でありました。彼女が保護司になった動機は、自分の息子の同級生のためなのです。家庭的に恵まれなかったA君は、小さい頃はよく家に遊びにきてあどけない笑顔を振りまき、大沼先生も可愛がっていたのですが、小、中学校と進むうちに荒れてきて外見も変わり、彼女にも挨拶すらしなくなり、やがて罪を犯し刑務所に入ったのです。そこで自分が保護司になり彼を担当して救いたい、また昔の輝くような笑顔を取り戻してほしいと切に願ったことからなのです。
そこから彼女の壮絶な保護司活動が始まるのですが、少年から救いの電話がかかってくれば夜中でも飛んでいき、不良グループから袋叩きにされていればそのか細い体で向かっていくというような、とにかく体を張っていわば息子、娘を守るのです。だから彼女自身もろっ骨を折ったりというような大変な経験をしているのですが、だからこそ、命をかけて自分達を見捨てず救い出そうとしてくれる大沼先生に対して、少年達は「お母さん!」と慕い、人生をリスタートさせるのです。少年院を出ても行く先がない子ども達が生活できる場として、彼女は「少年の家(ロージーハウス)」を運営し、彼らを引き取り、仕事の面倒まで見ています。先の大震災の時は、彼らが朝から晩までガレキ処理で頑張ってくれたそうです。
これだけ毎日を休みなく動き続ける彼女に、「いつ休んでいるのですか。そんなに働いて身体を壊さないのですか?」と聞くと、「更生した子ども達から感謝の手紙をもらったり、会いに来てくれて懸命に生きている姿を見ると、それだけでエネルギーになる、休みなんかいらない」ということでした。私達は仕事と関係のないことでリフレッシュすることを求めますが、彼女は他者のために自分が打ち込んでいることが報われ、他者が更生し感謝の気持ちを示されることでパワーの素になっているのです。
そして非行に走る少年達を絶対責めません。彼女は「子どもは悪くない」と言います。幼少期からの家庭環境がその根っこにあり、彼らが犯す罪は親に対しての「メッセージ」だと言って、その家族関係から構築し直していきます。私達は非行を繰り返す若者達にレッテルを張りがちですが、その幼少期を思えば、彼らに対する思い、そして我が子に対しての向き合い方も変わってくるのではないでしょうか。だからこそ、当日大沼先生の話を聞いた保護者達は一様に涙を流し、共感したのではないかなと思います。
私も保護司として刑務所を出所してきた人々の更生に関わっていますが、ここ酒田でも、世間の風の冷たさを感じます。再チャレンジしていこうとする人々に理解を示し応援できる心情、寛容の精神を持つこと、それがきっと幼い子どもにも通じて健やかな成長を促すのではないでしょうか。
長くなりすみません。私が話の内容をくどくど書いてもなかなか伝わりにくいと思うので、興味を持たれた方は是非大沼先生の著書を読んでいただきたいと思います。先日の講演会で販売した書籍の残りがまだ多少あるので、幼稚園まで声をかけてください。よろしくお願いします。