宮本警部が遺したもの
2008.03.05 先日、高校時代の同級生から連絡があり、二月十五日に放映される「千の風になってドラマスペシャル『死ぬんじゃない!~実録ドラマ・宮本警部が遺したもの~』を見てほしいという依頼がありました。
そのドラマは、昨年二月六日、東武東上線ときわ台駅の踏切で、交番勤務の宮本邦彦警部(事故当時・巡査部長)が、踏切自殺を図った女性を救うために、線路に飛び込み亡くなった事故を再現したものでした。連絡してきた同級生(女性)は、偶然にも事故の直前にお子さんと一緒に交番にいて、宮本警部から自転車の鍵を直してもらっていたそうで、事故の一部始終を目撃していました。ドラマでは、事故の前後を綿密な取材の元忠実に再現しており、主演の三宅裕司も役作りのため、同級生親子にまで詳しく話を聞いていったとのことでした。
運動音痴で、下りのエスカレーターにもうまく乗れないほど不器用だった(奥さん談)宮本さんは、警察学校時代の同僚が刑事にあこがれを抱く中、「交番の駐在になる」ことが夢だったそうで、実際に駐在勤務になってからは、正義感と人とのつながりを何よりも大切にしました。
平成十七年、最後の勤務地となった「常盤台交番」に配属し、事故現場となった踏切近くで、朝夕、子供たちの安全を見届け、学校の行き帰りには必ず声をかけていた…、お年寄りの手をとって丁寧に道を案内していた…、刑務所から出所したばかりの人を親身になってお世話した…、商店街の人たちからも「頼れるおまわりさん」と慕われた…、ドラマでは、実際にあった数多くのエピソードが紹介されました。
この交番での宮本さんの仕事ぶりがどれほどのものだったかは、交番の中には収まりきらないほどの千羽鶴が届けられたことが証明していました。都会の駅前交番…今、これだけ多くの町の人々に、名前まで覚えられている「おまわりさん」は、どれほどいるのでしょうか。事故について、「あの人なら…」(助けようとしたのも理解できる)、町の人々はそう語っていました。そして、「あの人こそ…」(生きていてほしかった)、とも。
同級生によると、宮本警部を偲び、彼の生き方を後世に伝える機会を作ったり、絵本にしたりという、周辺住民の動きがあるそうです。もちろん警察全体にも影響を与えているようです。
人に対する一つ一つの小さな思いやりや親切が、うねりとなって人を動かし、大きいものになっていくのですね。
ニュースとして事故や事件を見聞きする機会は多くありますが、どこか他人事のように思い、だんだん風化していってしまいます。しかし今回の事故のように、それに至る過程が再現され、また、同級生が居合わせた事実を考えただけでも、私にはとても身近な出来事として感じ、彼の行動や思いを自分に置き換えてみたりもしました。子どもやお年寄りと接する機会は、彼と同じく自分も仕事柄多々ありますが、本当に思いやりを持って接しているのかと反省させられました。
幼稚園の子ども達は、今はテレビに出てくるヒーロー達に夢中です。敵をバッタバッタとなぎ倒していくスーパーヒーロー達です。でも本当のヒーローとは、不器用でもいい、カッコよくなくてもいい、一つ一つの思いやりを人に与えていく人なんだということを、子ども達もいずれわかる時が来るのではないかと思います。