山形県 酒田の幼稚園『若草幼稚園』です。
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前園長ブログ

「おかえり」

2013.10.09

 (フェイスブックより転載)
保護司になって10年が経ちました。罪を犯して服役した後、出所した人を一定期間保護観察します。「おかえり」は、なかなか難しいですが、人生はやり直しの連続です。4年前に書いた文章ですが、N君のことは時々思い出します。

「対象者N君の死」(「園長のつぶやき」2009-7-15より)

 先日、N君のお母さんから電話があり、息子のN君の死を知らされました。私は驚きで声も出ませんでした。なぜなら、その前日、N君のお母さんの家を訪ね、N君が他県で元気で働いていることを聞いたばかりだったからです。ここ数年、N君とは会うことも電話で話すこともなかった私ですが、なぜかその日、ふとN君のことを思い出し、お母さんに近況でも聞こうと訪問したのでした。その翌日、N君は心筋梗塞のような発作で倒れ、そのまま意識が戻らず亡くなったそうです。「虫の知らせ」と言いますが、私はN君からの何かしらのメッセージを受け取ったのかもしれません。

 私は、6年程前から保護司を務めています。犯罪を犯して刑に服した人が、出所してから、社会で更生できるようにサポートする役割です。刑の重さにより保護観察期間は長短ありますが、短いので数ヶ月、長くなると数年間にわたり、1ヵ月に1~2回会って、真面目に生活しているか、きちんと遵守事項を守っているかなどを確認し、保護観察所に報告します。保護観察する相手のことを対象者といい、時には対象者からの相談に乗ったり、対象者と親族間で人間関係がうまくいってなければ、その仲介をしたりします。

 N君は、私が保護司になって初めての対象者でした。当時30代前半、覚せい剤使用等の罪(2度目)で、数年間服役して出所してきました。会って話してみると、素直で優しそうな感じで、とても犯罪を犯すような印象ではありませんでした。事件の詳細やその背景を探ると、友人からの誘いにずるずるとはまり、薬物依存になってしまった結果でした。薬物事件は再犯率が非常に高く、彼も一度失敗しています。彼が今度こそ薬への依存を断ち切れるか、それが私の懸念でした。

 N君本人も十分に反省し、もう二度と犯罪を犯すことはしないと私に誓いました。やはり刑務所での生活には戻りたくないという気持ちが強いだろうし、家族に迷惑をかけた分、その償いもしなければという思いもありました。

 私も保護司として初めてのケースであり、何とかN君の更生の役に立ちたいと強く思いました。まずは、彼が地元で生活していくために、仕事を見つけなければなりません。ハローワークに一緒に行き、彼が以前やっていた鳶職の求人を探します。何社かあり履歴書を送るのですが、いぜ面接にこぎつけても、前科があるということが分かると、この不況の時代に採用してくれるところはなかなかありませんでした。私も一緒に知り合いの会社を訪れ、採用をお願いするのですが、いい返事はもらえませんでした。

 仕事が見つからない間、N君からは時々、すくすく畑の作業の手伝いをしてもらいました。薬に依存した生活から刑務所の中での生活と、明るい日差しの下で健康的に毎日を送る機会が長い間なかったN君にとって、土や野菜、虫達に触れることは、かなりの刺激だったようです。採れたてのトマトやキュウリをガブリと美味そうに食べたり、堆肥作業でミミズやカナブンの幼虫を見つけ、歓声を上げていました。ナスをその場で焼いて食べさせると、「ナスってこんなに美味しいものなのですね」としみじみ呟くのものでした。また、森の山まつりの準備でも、運搬作業等を頑張ってもらい、最終日の反省会では少しながらお酒も口にし、周りの人と交流も持つことができました。もちろん薬への依存は、きっぱり断ち切っていました。

 少しずつ社会に適応していき、ようやく鳶の仕事が見つかったと聞いた時は、私も嬉しく、ホッとしたものです。保護観察期間が終わり、晴れて自由の身になったN君は、県外にも仕事の口を見つけ、出稼ぎにも行くようになりました。私はもう心配いらないだろうと安心し、また、保護観察が終わったこともあり、その後N君との連絡は途絶えがちになりました。

 それが何年もたってから彼のことを思い出し、自宅に近況を訪ねた翌日に、彼の死に直面するとは、本当に衝撃でした。N君の死を、私の潜在意識の中で予知し、こんな行動をとらせたのかもしれません。 

 しかし、死とは、今生での役割を終え本来の世界に戻っていくことと理解している私は、彼の死を悲しむというよりも、彼がこれまで何を成し遂げてきたかということを考えました。彼のお母さんから、仕事場では一生懸命真面目に働き、同僚からも信頼されていたということを聞き、彼は十分に更生したのだなと確信しました。早すぎる死でしたが、彼はこの世の生を全うし、本来の世界に帰っていったのだと思います。

 N君との出会いから、その後5人の対象者の保護観察を行いました。薬物や窃盗、傷害などいろんな犯罪を犯してきた者に会いましたが、彼らの更生にかける思いは真剣なものです。なかなか難しいことですが、底辺からはい上がり、更生しようと努力している者もいるのだということを、社会からも理解いただきたいと思います。

 初めての対象者、N君の死を通して、いろんなことを考えさせられたこの頃でした。」

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