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赤ちゃんの社会性

2009年11月12日

 今回の「PTA会長の寝言」の「若草幼稚園の思い出~罪と罰~」、面白いですねえ。『ねんどの部屋』での出来事がこれだけ鮮明に思い出されるのは、会長さんも書いているように、「怖くて夢のある場所」だったからでしょうね。子ども心には怖くてドキドキでも、後から振り返ると神秘的で夢があった、思い出の一コマなのでしょう。

 前の「園長のつぶやき」にも書きましたが、「その対象に対して、内的には近付きたい、一体化したいと切望しつつ、外的には畏れおののいて、一定の距離を保つ」、つまり「畏敬の念」を子供時代に持つことは不可欠と、哲学者で幼児教育学者のシュタイナーは言っています。

 若草幼稚園には、ホールの倉庫に住んでいると云われる「ねずみバアさん」の他にも、お寺の本堂の仁王様、森の山の鬼、地獄の絵の閻魔様、そして何よりも大仏さんと、恐れから畏れ、そして畏敬の念に変わっていく対象がいくつか存在しています。
 きっと今の園児達も、それらの存在に恐れおののきながらも、その畏敬の念がしっかりと成長過程に組み込まれていくことによって、善悪の判断や社会性がさらに地固めされていくのではないかと思います。

 ちょっと前置きが長くなりましたが、その子どもの社会性ということで、興味深いデータを紹介したいと思います。2年前に、アメリカのエール大の研究チームが、イギリスの科学誌「ネイチャー」に発表した論文データです。

 研究チームは6~10ヶ月の乳児を対象にして、3つの実験を行いました。最初の実験では、乳児らに、山頂へ登ろうとしている人形を見せて、この人形の行動目的を認知させ、その後に、二人の人が現れて、一人は山へ登れるようにその人形を助けてあげました。もう一人はわざとその人形を山のふもとまで引きずって下ろしました。
そして、乳児らは、この二人に近づいていくように仕向けます。すると、乳児の80%が山登りの人形を助けてあげた人を選んだそうです。研究スタッフは、乳児らの選択は人形を助けて上げた人の行為に賛同していることの表現であると解釈しました。

 この結果は、さらに次の実験の中で実証されました。二つ目の実験では、山頂へ登ろうとする人形を助けてくれた人と、妨害した人にそれぞれ近づかせて、乳児らの反応を観察しました。すると、山登りの人形が妨害した人に接近したとき、乳児らの顔に驚愕の表情が現れたそうです。

 さらに、研究チームは、「中性」人物を加えて、助けた人、あるいは妨害した人に並べて、乳児らがどちらを選択するかを実験しました。結果として、「中性」人物と助けた人の間に、助けた人を選ぶのは多く、一方、「中性」人物と妨害する人の間に、「中性」人物を選んだ乳児が多かったのです。

 実験では、人形や人でなく、アニメを使っても行われました。
 そのアニメでは、丸い図形がずっと平たい道を歩いてきて、坂道を一生懸命登ろうとする。ところが上から正方形が出てきてそれを押し返そうとじゃまをするのです。丸は一生懸命登ろうとするのですが、正方形が邪魔をして動けない、となった時に後ろから正三角形が出てきて丸を応援するのです。そして最後、見事に登りきるというアニメを見せたのです。
 その後で、その赤ちゃんたちを別の部屋に誘って、3種類のクッションを見せました。丸いクッションと正三角形のクッションと四角形のクッションのどれで遊ぶかと実験したのです。みんな、三角形を選んだそうです。後から、色や図形の役割を入れ替えて実験してみても、ほとんどが、後ろから助けていく図形で遊んだそうです。

 報告は「これらの実験結果により、10ヶ月未満のまだ話せない乳児は人々の互いに接する行為から、その行為の善悪を評価できる」と結論付けました。 
 チームを率いた同大の心理学者、カイリー・ハムリン氏は「ゼロ歳児にこのような社会的能力があるとは驚きだ。人間は生まれたばかりの時点で、教えられなくても社会性を備えているようだ」と述べています。

 私は、この結論に全面的に賛成です。性善説、性悪説と言いますが、「人間は善き心を持って生まれてくる」のです。
 この、「既に備えられた社会性」が、なぜかどこかでねじ曲げられていくことによって、反社会的な行為を犯す人間が出てきてしまうのでしょう。

 そう考えると、「既に備えられた社会性」を持っている子どもに対して、上から押し付けるのではなくて、持っているものを伸ばしたり、引き出していくための環境や体験、援助が必要だということは言うまでもないと思います。
 巷には「天才を育てる幼児教育」とか「小学校からでは遅すぎる」とかいった内容の教育論があふれていますが、まず何より大事なのは、幼児の社会性を真っ直ぐ素直に育んでいく教育なのではないかと考えます。

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